スザニという名前は、ペルシャ語の「suzan（スザン）」に由来し、「針仕事、刺繍」という意味があります。起源は17 ～ 18 世紀にさかのぼるとされますが、それ以前から同様の刺繍文化が存在していたとも考えられています。ウズベキスタンのシルクロード沿いの都市であるサマルカンド、ブハラ、テルメズなどで発展してきた刺繍で、この地は古代から貿易の要所であり、様々な文化や技術が交錯していたため、スザニのデザインにはペルシャやインド、トルコの影響も見られます。

スザニは自然や宇宙、日常生活のモチーフが多く、花、動物、幾何学模様、太陽、月などがあり、それぞれに意味合いを持ちます。ザクロの花は、豊穣や繁栄を象徴し、太陽や月は生命力や宇宙の力を表現しています。色使いも豊かで、特に赤、青、緑、金などの鮮やかな色がよく用いられ、これらの色にもまたそれぞれ特別な意味があります。例えば、赤は情熱と生命、黒は力や守護、青は空や精神性、緑は自然との調和を表します。こうした伝統的な色柄を一針一針刺していくなかで、作り手である女性たちの想いや祈りが込められています。

また、地域ごとに特色があり、サマルカンドは大胆なメダリオンやチューリップモチーフが多く、ブハラは 白地に大輪の花やザクロ、鳥などの刺繍など、それぞれの文化が継承され続けてきました。

スザニの主な用途は、婚礼用品（嫁入り道具）として作られることが多く、幸運や繁栄、愛と調和を願う意味が込められ、娘のために母親や祖母が用意し、結婚式では、これが「祝福の象徴」として新郎の家に持ち込まれます。また、婚礼以外でも、家庭の神聖さや繁栄を願う装飾品として、壁掛けやベッドカバー、テーブルクロスなど、日常中でも目にすることができ、人々の生活の中にも息づいてきました。

今日では、スザニは伝統的な用途だけでなく、インテリアデザインやファッションの分野でも人気を博しており、観光業や国際的なアート市場でも、ウズベキスタンのスザニは貴重な文化遺産として評価されています。

家庭内で行われるスザニ刺繍は単なる作業ではなく、家族の絆を深め、伝統文化の一部として母から娘へ大切に受け継がれてきました。手仕事に触れることで、背景にある深い歴史と意味を感じることができる美しい刺繍布スザニ。そして現代でも活かされるそのデザイン性は、世界中の人々に感銘を与え続けています。