春の始まりを思わせる草花模様がかわいらしい、刺繍。この刺繍は、インドに伝わるアリ刺繍という伝統技法。
マライカの現地仕入れスタッフより、インドのアリ刺繍に纏わるストーリーをお届けします。

アリ刺繍で描く温もり

歴史の残る古い街並みを抜けたジャイプル郊外の住宅地にその工房はありました。想像していたよりもずっと小さな四畳ほどの広さの部屋には年季の入った刺繍ミシンが5台。ここで美しい刺繍が生み出されています。アリ刺繍は目の揃ったチェーンステッチが特徴です。

コットン、レーヨン、ウールなどの様々な糸を使い、手刺繍やハンドミシン、専用ミシンで作られます。この工房ではアリ刺繍の専用ミシンを使っています。ミシンと言っても私たちが想像するような単純な足踏みミシンではありません。ミシンには手刺繍のアリ刺繍で使うような長さおよそ15センチの太くて丈夫な専用針を使います。

押さえ金が輪の形状になっている刺繍用のミシン。大切に使われています。

テーブル下のハンドルを右手で操作します。

左手で布を動かして刺繍の位置を調節します。

ミシンの抑えは可動式の輪のような形状になっていて、テーブル下についたハンドルで輪を動かし、針先の方向を変えながら自由自在に柄を描いていきます。

説明を聞いてミシンに興味津々な私を見て、職人さんが「やってみるかい?」と声をかけてくれました。

遠慮なくミシンの前に座らせてもらいます。

モーターをつけテーブルの右下にあるハンドルを引くとミシンが刺繍をしながら進んで行くのですが、思い切り力を込めないとうまく操作することができません。おまけにミシンの振動で腕全体がすぐにビリビリとしびれてきます。

熟練した技を持つ職人さんは、右手でハンドルを、左手で布を動かしながら下絵にそって器用に模様を描いていきます。集中力と体力が必要な想像以上に大変な作業です。

ミシンを触らせてもらいました。想像以上に難しい!

下絵をつける様子も見せてもらいました。

まず薄紙に図案を写し、その線にそって針で穴をあけます。そして薄めたオイルを端切れに染み込ませて洋服の上に置いた薄紙の上からなぞり、印をつけていきます。これも一枚ずつすべて手作業で行われています。

糸はそれぞれグラデーションに染められて用意されます。見本を確認しながら職人さんが素早くハンドルを動かすと、そこに緑色の葉っぱが生き生きと枝を伸ばします。

下絵をつける様子。一枚ずつ手作業です。

グラデーションカラーに染まった刺繍糸。

そして糸を変えると今度は花びらを一枚ずつ。美しい大輪の花が咲きました。

まるで魔法のようなその光景にうっとり見とれていると不意にミシンが止まりました。職人さんから、花のつぼみ部分のデザインについての提案でした。見本より素敵な出来栄えになりそうだったので即採用。

左が見本のデザイン。つぼみのデザインが変わり、ぐっと華やかに。

私たちはこんな風に現地に足を運び話し合って、実際に作業をする人々の意見を取り入れることがよくあります。長年の経験を持つ彼らは私たちには思いつかないような素晴らしいアイディアを持っているのです。

こちらからもより良い商品づくりをしていくためはどうしたらよいか、要望を直接伝えます。メールや書類のやりとりだけではわからないことも、現地の状況を見ることでお互いに理解を深めることができるのです。

工房には子供たちが遊びに来ることも。

ふと視線を感じて振り返ると入り口に子供たちが集まってきていました。

みんな好奇心いっぱいに私のカメラを覗き込んできます。聞けば近所に住む職人さんの子供たちなのだそう。幼い頃からこうして身近に手仕事を見て育つ彼らは、きっと将来この素晴らしい技術を受け継いでいってくれるでしょう。

一口に機械刺繍と言っても、機械にプログラムされたコンピューター刺繍とはまったく違い、職人の経験と技によって生み出されるこの刺繍は限りなく手刺繍に近い手仕事と言えます。ものによって少しずつ違うその表情が手仕事の証なのです。

春の始まりの花刺繍のお洋服。

まるで心にもお花が咲くような手仕事の温もりを感じていただけたらと思います。

アリ刺繍の商品は、一部店舗を除く全国のマライカ、または、公式オンラインショップでも販売しております。

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